前回の続きです。
同書は「過剰な貯蓄が国を滅ぼす害悪だ」(裏表紙)とある。 この点は私も同意なのだが、著者は「なぜ人々が過剰な貯蓄を行うかの分析が欠けている」としか思えない。なぜ人々が貯蓄を行う大きな理由はデフレ期待が消えず、日本の将来に相当な不安を持っているからだと考えられる。しかし、堂免氏は肯定否定を問わずデフレに関する記述がほどんど見られない。これが同書の最大の特徴であろう。
では何故デフレに関する記述がないのだろうか。デフレを解消するにはインフレにするしかないのだが、「インフレは悪」という旧来の考えを持っているであろう。例えば、次のように書かれている。
政府が利息ゼロの国債を23兆円発行し、日銀に買い取ってもらいます。日銀が23兆円の金を社会に供給supplyすることになります。カネ消滅に等しい額ですから
インフレになりません。(堂免、P203 ゴシック体は引用者)
財政法第5条で「すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。」と条文がある(著者は知ってるかな?)が、同条但書ように「但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。」ということで日銀引き受けが可能だしてもこの文章はトンデモです。
もし23兆円の無利子国債を日銀引き受けで発行しても、国債によって増加した収入を公共投資や財政再建のため既存国債の償還に使えば通貨供給量が増大しインフレ要因になります。実際、第2次世界大戦後の日本は国債の日銀引き受けによって通貨供給量が拡大しインフレが加速しました(笑)。日銀国債引き受けによるインフレ加速の反省から財政法5条がある訳です。
著者は先程の主張を「まるで魔法のような方法」(同頁)と書いているが、全然魔法じゃないぞ。インフレがなくてそんなこと可能なら歳入をすべて国債を発行し日銀に引き受けてもらえばいいので無税国家が誕生するじゃないか(爆)。もちろん無税国家の話は、バーナンキの背理法が元ネタです。
私がこの文章を引用するのは、あくまでもインフレに関して警戒していることを書きたかっただけでしたが、かなり脱線しました。先程の件でもマイルドなインフレになれば名目の税収が増えるので財政赤字解消の役に立ちます。逆にデフレは税収が減少するので財政再建にとって有害なものです。
著者は「自分の頭で考える」ということを重視している。確かにこの点は正しいが、論語の次の言葉を著者に贈りたい。
「思いて学ばざれば、則ち殆うし」